モンハン小説 『碧空の証』 #8

 ユクモ村――。
「とりあえず戻ってきたけど……どうするの?」橋を渡りながら、ソラがレオンに訊いた。
「武器の訓練ができるような、広い場所に行きたいんだけどな」
「うーん。あっ、それならユクモ農場がいいかなぁ」
「ユクモ農場?」
「うん。この村の農場だよ」
「そのまんまだな」
「だって、それ以上の説明ができないんだもん」ソラが頬を膨らませる。
「“百聞は一見に如かず”よ。聞くよりは実際に行って見たほうがいいわ」
「そうそう。ひゃくぶんはいっけんにしかず、だよ」
「どこにあるんだ?」
「説明するの、面倒くさいから付いてきて!!」
 ソラが走り出したので、レオンとナナも彼女の後に続いた。

 ユクモ農場――。
 ユクモ村の門をくぐり、最初の石段を登ってすぐの踊り場から続く道を辿ると、ユクモ農場に行くことができる。
 轟く滝から走る激流の上で揺れる吊り橋を渡ると、そこはユクモ農場だ。
 広大な農場の半分ほどは畝が連なった畑で占められ、キノコを栽培する小屋が畑の一角に佇み、鉱石を採掘できる岩盤が奥に聳〈そび〉えている。また、向かいに見える大河には魚を獲るための網が設置されている。

「おお、広いな」吊り橋を渡り終えたレオンが呟いた。
「ここでは村の人たちがいろんな作物を育てたり、お魚を獲ったりしてるよ」
 見ると、数人の村人とアイルーたちが熱心に畑を耕していた。
「オレの村にはこんなに広い農場はなかったもんな……」感心したようにレオンは頷いている。「そうね」とナナも頷いた。
「どのあたりで特訓するの?」
「そうだな……」
 レオンは農場をゆっくり見回すと、彼らの目の前にある平坦な土地を指差した。
「そこらへんでよさそうだな」
「はーい」と返事して駆けだそうとするソラ。その彼女を、レオンは肩を掴んで引き留めた。
「ん? どうしたの?」
「そのままの武器を使うつもりか?」
「あ……。そうだった」
 ペロッと舌を出すソラ。その仕種に、レオンは心を射抜かれるような刺激を感じた。
「と、とりあえず、武器についての説明をしないとな。長くなるけど、しっかり聞いてくれ」

 ――この世界には、モンスターを狩猟するための専用の武器が多数存在する。そのいずれも、ギルド・工房の最先端技術によって開発・生産がなされる。
 武器種は大きく二つに分類される。一つは、近接武器、もう一つは、遠距離武器である。
 近接武器は、その名の通りモンスターに接近し攻撃を与える武器であり、またその中でも《切断系統》と《打撃系統》の武器に分かれている。遠距離武器も名の通り、モンスターから離れた位置から攻撃できる武器である。
 また、武器工房が取り扱う武器種はギルドの管轄地域によって異なる。
 ユクモギルド管轄の工房では、近接武器である≪大剣≫、≪太刀≫、≪片手剣≫、≪双剣≫、≪ハンマー≫、≪狩猟笛≫、≪ランス≫、≪ガンランス≫、≪スラッシュアックス≫、遠距離武器の≪ライトボウガン≫、≪ヘヴィボウガン≫、≪弓≫――合計12種の武器を扱う。
 身の丈を超える巨大な刀剣、≪大剣≫。機動力こそ低いものの、その重量とリーチを活かした重撃は、最大級の強さを誇る。また、刀身でガードも可能な、オールラウンダーな武器でもある。
 大剣を大幅に軽量化した≪太刀≫は、ガードはできないが、軽やかに流れるような連撃や、広範囲に渡る斬撃が可能である。
 小振りな剣と盾を扱う≪片手剣≫。軽快な機動力で、安定した立ち回りが可能な武器であり、初心者ハンターがよく使用する、人気の高い武器でもある。
 両手に刀剣を構え、守りを捨て、攻めを重視した武器である≪双剣≫は、手数が多く素早い攻撃を繰り出せるのが特徴である。
 近接武器の中でも重量級の打撃武器、≪ハンマー≫。機動力は低いが、その一撃がもたらす破壊力は絶大で、頭に攻撃をヒットさせればモンスターを昏倒させることもできる。
 ≪狩猟笛≫は、ハンマーから派生した打撃武器で、特殊な音色を演奏することにより、聴く者の能力を増幅させることができる。内部が空洞であるため攻撃性能は劣り、主にサポート向きである。リーチはハンマーに比べ長い。
 また、ハンマーや狩猟笛といった打撃武器は、モンスターのスタミナを奪うことが可能である。
 先端が鋭く尖った槍と巨大な楯を一組とする≪ランス≫は、高威力の突きを連続で放てる上に、頑丈な楯による鉄壁の守りが可能な攻防一体の武器である。槍や盾に阻まれ前転回避や横転回避は不可能であるため、ステップで回避する必要がある。
 ランスの堅固〈けんご〉さに、砲撃機構が備わった武器≪ガンランス≫。最大の特徴は、竜が吐くブレスを応用した超強力な“竜撃砲”が放てることである。しかし、攻撃時に凄まじい熱量を発し刀身にかなりの負担を掛けるため、連続使用は不可能である。
 工房の最先端技術を駆使した変形機構を搭載する≪スラッシュアックス≫。斧と剣の2形態を兼ね備えた武器であるが、機動力がかなり低いため守りは極端に薄く、扱うには相当の技術を要する。特殊な薬品詰め込んだビンを使用した“属性解放突き”と呼ばれる必殺技は、威力絶大だ。
 火薬と弦を併用した射撃武器、ボウガン。機動力が高く、連射機能の高い軽量級の銃を≪ライトボウガン≫、機動力は低いが高火力の重量級の銃を≪ヘヴィボウガン≫と呼ぶ。また、他の地域では中量級の≪ミドルボウガン≫と呼ばれるボウガンもある。モンスターの状態異常を狙いやすいということもあり、サポートにもかなり向いている。
 ≪弓≫は、弦のみを用いて矢を放つ武器である。機動力は高く、薬品を詰めたビンを矢に装着することで状態異常を狙うこともできる。矢を手に取って“矢切り”という近接攻撃を行うことで、周りに寄って来る小型モンスターを払うことができるため、様々な距離からの攻撃が可能となる。
 また、世界にはまだ知られていない武器や新技術の確立によって開発された武器も存在するために、正確な武器数は判明していない。

「――とりあえず、こんなところかな」
「う、うん……」
「近接武器はモンスターに接近するぶん、モンスターからの攻撃に当たりやすいが、こちらの攻撃を当てるのはさほど難しくない。ま、モンスターもこっちの攻撃を避けようとするからなかなか当たらないけどな。遠距離武器はモンスターから離れているから、近づいてでも来ない限り、モンスターの攻撃が当たることはまずないが、ブレスなんかの遠距離攻撃を仕掛けてくる奴もいるから、そこは注意が必要だな」
「なるほど……」
「それで、オレとしては、ソラは遠距離武器を使うことをオススメするよ」
「え? なんで?」
「近接武器は、基本的に大きくて重い。ソラは身体が小さいから、扱うのは困難だと思う。ま、片手剣や双剣みたいに、軽量級の武器なら話は別だけどな」
「…………」ソラは黙ったまま頷いた。
「あと、さっきソラはガーグァを“殺す”のを躊躇ったよな?」
「う、うん……。直に斬り込んでいくのは、ちょっと嫌だったから……」
「そう。近接武器は、モンスターに直に攻撃することになるから、斬ったり叩いたりした感触が手に残る。ソラはそういうのが苦手だってわかったから、遠距離武器だと……“傷付け”たり“殺し”たりする感触は軽減されると思うんだ」
「う……ん」ソラは小さく頷いた。
「……じゃ、ボウガンか弓ってことになるの?」
「個人的な意見だし、別にその通りにしなくてもいいけどな」
「う~ん……」
「実際に扱ってみないとわからないってこともあるんじゃない?」ナナが言った。
「それもそうだな。ソラは、それでいいか?」
「うん。とりあえず、師匠の言うとおり、ボウガンと弓だけ触ってみるよ」
「よし、じゃあ武器屋へ行って借りてくるか」
 レオンは踵を返し、歩き出そうとする。
「あっ、わたしも!!」
「あたしはここにいるわ。農場を見て回りたいし」
「おう」
 レオンとソラは来た道を引き返していった。
 二人の姿が見えなくなると、彼女は再度農場を見渡した。
(それにしても、ホントに広いわね……)
 ナナが以前住んでいた場所――レオンの故郷の村には、ここまで大きな農場ではなかった。
 ふと、農場の隅にあった細長い木の箱が目に留まった――というよりは、箱に入っている生ゴミの中から突き出している、棒のようなものに彼女は気が付いた。
(……?)
 ナナは箱の前まで来ると箱の縁に飛び乗り、棒を凝視した。
(毛が生えて、肉球がある……。これは……脚ね。あっ、もしかしたら……)
 ナナはそれを両手で掴むと、引っこ抜いた。足場が狭く足を踏ん張れないため、そのまま箱の縁から飛び降りた。
「やっぱり……アンタだったのね」引っこ抜いたものを見て彼女はそう呟いた。
 昨日、タル配便の転がしニャン次郎に預けた、ソラのオトモアイルーのタイガだった。全身が真っ黒に汚れ、異臭を放ち、白目を剥いて気を失っている。
(こいつのことを“ゴミ”と伝えたけど、本当にゴミ箱に配達するなんてあのメラルーもなかなか真面目な奴ね。……このままにしておくのもなんだし、洗っておこうかしらね)
 ナナは農場の側を流れる大河の岸部までタイガを引き摺って行くと、尻尾を掴んで水に浸け、じゃぶじゃぶと洗った。

 ユクモ村、加工屋・武器屋――。
「おねぇさーん」
 ソラは武器屋のカウンターに座っている店員の若い女性に声をかけた。
「あら、ソラちゃん。どうしたの?」
「えっと、ライトボウガンとヘヴィボウガンと弓を貸して欲しいんだけど」
「ライトとヘヴィと弓? いいけど、どうするの?」
「武器の特訓をするの」
「へぇ。武器の特訓を……」
「それで、この人が師匠なの」
 ソラはレオンを指した。
「あ、どうも。レオンです」
「レオンさんね、よろしく。武器や防具の購入、買取はウチに任せてね。隣の加工屋だと、装備の整備〈メンテナンス〉ができるわ」
「最近、防具の整備ができてなくて、いろいろガタがきてるからなぁ……。じゃ、そのときはよろしくお願いします」
「えぇ。それじゃあ、武器を取ってくるから、ちょっと待ってて」
 そう言い残し、店員は店の奥へと消えた。
「最近、防具の整備ができてないからなぁ。また今度、頼もうかな」
「うん。竜職人のじぃちゃんに任せれば良くなって帰ってくるよ」
「へぇ」
「あぅ、呼んだかい?」
 背の低い加工屋の竜職人が二人の隣に現れた。肩には鉄を打つための槌を担いでいる。
「あっ、じぃちゃん!!」
「あぅ、ソラちゃんけぇ。んで、こっちの男は……なんか見覚えのある顔だなぅ」
「オレはレオンです。見覚えのある顔はオレの父だと思います」
「あぅ、そうけぇ!! この村にいる間はよろしくなぅ!!」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
 竜職人が工房の中へ戻っていくと、入れ替わるように店員の女性がボウガン2種と弓を抱えて帰ってきた。
「はいはーい。持ってきたよー」
「ありがとー!!」
「こっちがライトの【ユクモノ弩】で、こっちがヘヴィの【ユクモノ重弩】。で、これが【ユクモノ弓】よ。使い方は……大丈夫かな?」
「うん、たぶん大丈夫!! ねっ、師匠?」ソラはレオンの顔を窺った。
「オレは武器の特性は理解してるけど、扱い方までは教えられないぜ?」
「あれ、そうなの? てっきり、師匠は全部の武器を扱えるものだと思ってたけど」
「基本的に、ハンターは一つの武器しか扱わないのが普通なのよね。扱えても、二つ、三つくらいが限界だと思うよ」店員が説明した。
「へぇ、そうなんだ~」
「すまないな」
「ううん。わたし、がんばってみるから」
「じゃ農場へ戻るか!!」
「よし!! おねぇさん、ありがとう!!」
 レオンがボウガン二つ、ソラが弓を持つと、二人はユクモ農場へ引き返した。
「がんばってね~」店員は二人の背中が見えなくなるまで手を振っていた。

 

☆あとがき

 現在も物語を執筆中なんですが、進捗ダメです(笑)

 今回こそは、最後まで書き終えたい……。

 

 あと報告ですが、ある程度の話数を投稿したら、別サイトの方へ加筆修正版を投稿しようと思っています。

 特に、5話の、レオンとソラのアレなシーンに力を入れたいと思――

 (文章はここで途切れている……)